時間-温度換算則の適用とメカニズムの解明

 高分子材料は、特有の粘弾性挙動を示し、クリープ・応力緩和挙動など時間に依存した性質を示すことが知られています。この時間に依存した挙動は、製品の信頼性の確保のためにも把握する必要があります。一般的に長期寿命予測においては、”時間-温度換算則”を用いた加速試験を行っていますが、この手法は経験則であり、分子の動きからのメカニズムの解明には至っていません。本研究では、粘弾性特性と密接な関係がある自由体積の変化や、それぞれの分子の動きを分子動力学シミュレーションを用いて解析を行うことにより、”時間-温度換算則”のメカニズムの解明を目指しています。

炭素繊維強化複合材料の損傷蓄積挙動の解明

 炭素繊維強化複合材料(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、炭素繊維を樹脂(プラスチック)で固めた複合材料であり、軽量かつ高比強度・高比弾性を示すことから、航空宇宙分野だけでなく自動車産業など幅広い分野で用いられています。しかしその複雑な構造より、損傷発生挙動が複雑になり、把握するのが困難です。本研究ではその損傷モード(樹脂割れ・界面剥離・層間剝離・繊維破断)をアコースティック・エミッション(AE)法と呼ばれる、損傷音を捉える非破壊検査手法を用いて解析することで、いかなる場合でも損傷モードを明らかにすることを目的としています。

接着材硬化時における電圧の発生挙動の解明

 エポキシ樹脂は、エポキシ基とアミン(硬化剤)の化学反応によって硬化します。この化学反応において、反応前に電荷はそれぞれ0であったものが、反応後には電荷の偏りが発生します。このことから硬化反応時に電荷の移動が生じます。実験的に硬化反応時の電圧測定を行うことで、電圧が発生することを明らかにしています。また、分子軌道法と呼ばれる電荷分布を考慮した解析を行うことで、それを実証しております。この研究をさらに進めることにより、不純物が混入した際の検出を可能とすること、また電圧を与えることで接着状態の改善を可能とすることを目指しています。

熱エントロピーと材料の寿命の関係

 高分子材料は変形に伴い自由体積が増大することが知られています。本研究室では、自由体積の増加に伴う熱容量の増加を測定することにより、変形に伴う熱エントロピーの増大を明らかにしてきています。また、自由体積の直接的測定からも、変形に伴う自由体積分布の変化を明らかにしています。最終的には、熱による非接触測定により、航空機部材などの健全性評価だけでなく、余寿命評価を可能とすることを目指しています。